「メタバース(metaverse)」は、多人数が参加可能なインターネット上の仮想空間、もしくは仮想空間サービスを意味します。
もともとは英語の「meta(意味:超)」と「universe(意味:宇宙)」を組み合わせた造語で、米国の作家ニール・スティーヴンスン(Neal Stephenson)による1992年発表のSF作品『スノウ・クラッシュ(Snow crash)』に登場する、架空の仮想空間サービスの名称でした。
その後、技術の進化によってオンライン上の仮想空間サービスが誕生すると、実在するサービスの総称としても使われるようになりました。2000年代の『セカンドライフ(Second Life)』や、近年人気のゲーム『フォートナイト』『あつまれ どうぶつの森』『ロブロックス』なども「メタバース」の一種と言われています。
2021年10月、米国FacebookがMeta Platforms Inc.(略称「Meta」)に社名を変更し、メタバース事業へ注力することを発表しました。
Meta(旧:Facebook)のマーク・ザッカーバーグ最高経営責任者(CEO)は、「メタバースでは、友人や家族との集まり、仕事、学習、遊び、買い物、創作。想像できることはほぼすべて可能だろう」と述べています。
これをきっかけに、メタバースはデジタルサービスとして注目を集め、主に、現実世界での行動の代替が可能な「もう1つの世界」としての仮想空間を意味する言葉となりました。
XR(VR、MRなどの現実世界と仮想世界とを融合させる技術の総称であるExtended Reality / エクステンデッドリアリティの略)技術やデバイスの進化は、これまで以上にリアルな体験の提供を可能にしています。ゲームなどのエンタメ領域に限らず、今後多様な業界での活用が期待されています。
2020年のメタバース市場は、世界で476.9億米ドル。2028年には8289.5億米ドルに拡大すると予想されています(※)。
(※)https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000041.000082259.html(カナダの調査会社Emergen Research調査より)
メタバースが注目される背景には、3つの要因があります。
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近年、VRゴーグルやコントローラーなどのデバイスが急速に進化し、ゲーム分野で普及が進んでいます。メタバース内の自身の分身であるアバターに、表情や体の動きを反映するためのトラッキング技術も向上しています。
ラスベガスで開催されるハイテク技術見本市のCES2022では、ヘッドセットなしでリアルな3D体験を生み出す、没入型のホログラフィックソリューションも発表され(※)、ホログラム技術によるメタバースへの取り組みも始まっています。
また5Gの商用化は、ネットワーク回線の高速・大容量化を実現しました。これは仮想空間での移動や動作が、リアルタイムに近付いたことを意味します。
これらの要因により、現実世界でしか体験できなかったリアルな体験をメタバースでも提供することが可能になってきています。
将来的にはさらなる技術の進化に伴い、加速度的にメタバースがあらゆる活動で普及していくと予想されます。
2つ目の背景は、経済的な側面です。
メタバースで急拡大していく可能性があるのが、NFTや仮想通貨などブロックチェーン技術を活用した新たな経済活動です。
NFTは「Non-Fungible Token」の略で、日本語では「非代替性トークン」と訳されます。ブロックチェーン技術による、他と代替ができないデジタル資産です。
NFTでは、ブロックチェーン上に全取引が記録され、作者名や所有者名などの証明情報も追記できます。そのため唯一無二の価値が担保され、資産価値や取引の信頼性が高まるとされています。
デジタルアイテム(データ)をNFT化することで、管理や収益化、マーケットプレイスでの売買などが容易になり、経済活動の市場は拡大していくと考えられています。
【ブロックチェーンによるメタバースプラットフォーム】
海外では主にゲーム分野で、イーサリアムブロックチェーンによるメタバースプラットフォームが生まれています。このようなプラットフォームでは、開発したメタバース内のデータをNFT化することができます。(例:「Decentraland(ディセントラランド)」、「The Sandbox(ザ・サンドボックス)」など)
3つ目の背景は、社会的な側面です。
新型コロナウイルスが世界的に感染拡大した2020年、世界のインターネット利用人口は前年より7%(2億9800万人)増加し、全人口の59%(45億4000万人)に達しました(※1)。
従来はリアルが主流だった活動も、オンラインへの移行が加速しています。人間のあらゆる活動がオンラインへ移行するに伴い、デジタル上の「もう1つの世界」であるメタバースへの注目度も高まってきているのです。
たとえば、パンデミック下では世界的にテレワーク率が上昇し、職場に出勤せずに働く人の割合が増えました(※2)。
またプライベートな活動でもオンライン化が加速しています。ショッピングでは2020年に、日本国内での物販に限定したEC市場規模は前年比21.7%増となり、オンライン移行が急速に進みました(※3)。
コロナ終息後もこの流れは止まらないと予測され、メタバースでのイベントや商取引などへのニーズも高まっていくと考えられます。
(※1)https://wearesocial.com/jp/blog/2020/01/gdt2020
(※2)https://www.jil.go.jp/foreign/jihou/2021/11/oecd_01.html
(※3)https://www.meti.go.jp/press/2021/07/20210730010/20210730010.html
ゲーム分野で先行するメタバースの取り組みは、不動産やバーチャルオフィスなど別ジャンルの新規ビジネスへの活用にまで広がってきています。
先行する海外における、メタバース活用事例をご紹介します。
・マーケティング分野での活用事例
(※adidas OriginalsのTwitterより)
スポーツアパレルブランド「アディダス」の「adidas Originals」は、The Sandbox(ブロックチェーンゲーム)内にある仮想の土地の一部を取得し、限定コンテンツや体験を充実させる計画を進めています。
2021年12月17日には、メタバースプロジェクトの一環として、ブランド初のNFTコレクション「Into the Metaverse」をリリース。NFTの所有者に「バーチャルでのブランド体験と限定プロダクト、メタバースへのアクセス権」を得る機会を提供しました。NFTを取得した人は先行ユーザーとして、将来アディダスがメタバースで提供する新たな商品や体験の開発にも貢献できます。
この新たなadidas Originalsコレクションは、The Sandboxなどのメタバースプラットフォーム向けに作られたNFTウェアと、同デザインの実際のプロダクトを含みます。各NFTは、ヨーロッパ時間12月17日(日本時間12月18日)より0.2 ETH(※2)(日本時間2021年12月18日7:00時点:約9万円~8万4千1円相当)で販売開始し、翌18日に完売しました。
※ETH:
ETH(イーサ)は、イーサリアム内で使用する仮想通貨の単位。イーサリアムは、ブロックチェーン・プラットフォームの名称であり、分散型アプリケーションやスマート・コントラクトを構築できる。
グッチは3DCGゲーム「Roblox(ロブロックス)」上に作られたメタバース「Gucci Garden」で、シグネチャーウェアとグッズのデジタルコレクションをリリースしました。
Robloxのアバターは、Roblox内の「Gucci Garden」に入ることができ、グッチの特別なRobloxコレクションから限定アイテムを発見し、Roblox内通貨Robuxで購入することが可能でした。
これらの仮想アイテムの一部は、その後所有者によって高額で転売されました。限定アイテムのひとつ「蜂の柄が入ったディオニュソスバッグ」は、NFTマーケットプレイスで2,900ポンド相当で売買されました。この価格は、元の475 Robuxの価格(約4.20ポンド相当)をはるかに上回っただけでなく、同等の物理的なアイテムの価格をも上回っています。
・メタバースサービス
(※MetaのTwitterより)
Meta(※リリース時はFacebook)は2021年8月19日(米国時間)、メタバース・サービス「Horizon Workrooms」のベータ版をリリースしました。
このサービスは、チームがつながってコラボレーションを行い、アイデアを発展させるためのVR空間です。オールインワン型VRヘッドセット「Oculus Quest 2」で世界中からメタバース内の会議室に参加し、共同作業ができます。
Oculus Quest 2の利用可能な国であればどこでも利用可能で、無償でダウンロード可能。最新のMR技術やキーボードトラッキング、ハンドトラッキングなどを用いて、生産性の高い体験の提供を実現しています。
同社はこのサービスについて、下記のように述べています。
「Workroomsは利用者が物理的にどこにいても、同じバーチャルルームに集まって一緒に仕事ができるといった、Meta(旧:Facebook)が注力するコラボレーション体験です。
VRとウェブを併用することができ、また、チームとの共同作業やコミュニケーション効率を高め、VRの技術を用いて離れていてもつながることを可能にします。
ブレインストーミングを行ったり、ホワイトボードにアイデアを書き出したり、ドキュメントを作成したり、チームメンバーから進捗状況の報告を受けたり、あるいは何となく集まって雑談するなど、より話しやすい環境で会話することができるでしょう。」
メタバース不動産といえば、メタバースプラットフォーム「Decentraland」、「The Sandbox」での土地取引事例が有名です。
DecentralandやThe Sandboxの仮想土地不動産の区画は、もっとも高い区画では、1区画当たり数百万ドルもの高額な価格で取引されています。
もう1つ、代表的なメタバース不動産として、メタバース内の土地の区画を購入、販売、および収集できるプラットフォーム「SuperWorld」があります。
SuperWorldでは現在までに、ラシュモア山(0.1 ETHで販売)、タージマハル(50 EHTで販売)、エッフェル塔(100 ETHで販売)など、ユニークな仮想の土地や建造物が販売されています。
仮想の土地区画を購入したユーザーは、独自のデジタル資産を所有するだけではありません。
これらのプラットフォームでは、現実世界の土地と同様に、所有する土地から収益を得ることができます。具体的には、土地を貸し出したり、住居や商業施設、オフィスなどを建てて賃料を得たり、店舗を作ってアイテムを販売したり、有料イベントを開催したりといった方法があります。
メタバース不動産は、一般には「非常に投機的」であると考えられていますが、技術者の中では、将来的にメタバース自体が成長し、独自の経済圏を持つようになると信じられています。
メタバース不動産は今、人気が急上昇しており、企業でも独自のデジタル世界を創出し、その土地を活用したデジタル資産の形成に挑戦し始めています。
(※ライジンガーのInstagramより)
メタバースではもちろん土地だけではなく、土地の上に建てる住宅などの作成・売買も可能です。
この記事の最後は、メタバースの住宅サービス例として、アルゼンチンのデジタルアーティスト ライジンガーが、マドリードを拠点とする建築家 デ・ラ・フエンテと共同でデザインしたバーチャル住宅「WinterHouse(ウィンターハウス)」をご紹介します。
このWinterHouseは、メタバース内に建築することができる、バーチャルな家具付き建売住宅です。内装やインテリア込みで購入し、Sandbox、Decentralandなどのメタバースプラットフォーム内に建てて住宅として扱うことができます。
ライジンガーは、その独特の作品でインスタグラムで注目を集め、これまでに数々のバーチャルアイテムを販売している人気アーティストです。例えば、NFTのオンライン・オークションではバーチャル家具のコレクションを販売し、7万ドル近い値をつけています。
このバーチャル住宅は、ドイツの工業デザイナー ディーター・ラムスによる1960年代初期のコレクションを反映しつつ、「『メタバースの冬』のイメージを探求する」ことをテーマに作られました。
雪の森の中の隠れ家としてデザインされた2階建ての家は、床から天井まである大きなガラス窓、やわらかな温かみのあるピンクと白で統一された内装、そして直線と円を組み合わせた構造が特徴的です。
「私たちは、冬という季節が、メタバースでどのように見えるかを描きたかったのです。私たちが冬から連想するすべての感情(主に静寂と快適さ)を集め、この仮想空間に運びました」と、ライジンガーは語っています。
多くの人にとって、ECサイトでの購入やテレワーク、ビデオ通話が当たり前になり、デジタル上での行動が日常生活の一部となりました。5Gの普及や技術の進化とともに、デジタル上の活動はあらゆる領域でさらに活発になっていくと考えられます。
その形態のひとつであるメタバースは、デジタル世界であると同時に、もう一つの「リアル」な世界でもあります。
現実世界でも価値を持つデジタル資産の取引・保有ができるメタバースの取り組みは、ビジネスとして今後活用され、ますます身近になっていくでしょう。
※次回記事では、メタバースと関係の深い「NFT」についてご紹介しております。