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自動車購入のCXを変える!コロナ禍の海外自動車販売VR事例

Posted by ADDIX on Dec 14, 2021 4:46:23 PM

新型コロナウイルス感染拡大が影響し、2020年の米国新車販売台数は前年比14.5%減と大きく減少しました。しかし、危機は同時に自動車販売業界の革新を促しました。

ショールームへの訪問が中心で、手間も時間もかかる「自動車購入時のCX(顧客体験)」を根本から変えるべく、今や世界中のディーラーが、デジタルによる新たな販売施策を打ち出しています。本記事では「バーチャル試乗」や「バーチャルショールーム」など、海外の自動車販売・マーケ領域のVR活用事例をご紹介します。

 



1.背景:自動車販売にVR技術が求められる理由は?

コロナ禍は、世界の自動車業界に大きな爪痕を残しました。一例を挙げると、米国における新車販売台数は2020年、パンデミックの影響によって前年比14.5%減の1,458万541台と大幅な減少を記録しています。

自動車販売業界が大きな痛手を受けた原因は、ロックダウンによる店舗閉鎖だけではありません。自動車販売業界が他業界に比べ、DX(デジタルトランスフォーメーション)の実行が遅れていたことも主な要因の1つに指摘されています。

コロナの脅威にさらされた1年で、大きな買い物をネットで大きな買い物をネットで行うことへの抵抗感も薄れつつあります。実は、自動車購入も例外ではありません。ある調査によれば、日本市場でも約3割が「次の車を直接メーカーのウェブサイトからオンライン購入することに興味あり」と回答しています。

この変化を受けて多くのディーラーでは、デジタルを活用した新たな顧客体験を提供開始しています。具体的には「バーチャル試乗」や「バーチャルショールーム」といった試みです。

 

2.事例紹介:海外自動車販売のVR活用事例

(1)バーチャル試乗


本VRを活用したバーチャル試乗は、運転の楽しさやモデルの個性を伝えるのに有効です。実際の公道での試乗の時に生じるドライバーのリスクもありません。
またディーラーやメーカーにとっては、高額の試乗車を準備する必要がなくなります。数百万ドルもの節約ができることは大きなメリットです。

【バーチャル試乗:事例】
イタリア自動車メーカー「アバルト(ABARTH)」:新型モデルで海岸を走る“リアル”な体験

 

Abarth-Test-Drive-4(※画像出典:https://www.autoexpress.co.uk/abarth/354240/new-virtual-reality-test-drive-puts-you-driving-seat-pictures)

 

イタリア自動車メーカー「アバルト(ABARTH)」は潜在的な顧客に対して、ソーシャルディタンスを保ちながら車を試乗できる、新しいバーチャルリアリティ体験を提供しました。このバーチャル試乗体験は、イギリス南部エクセターにあるVospersのディーラーでのみ行われています(※2021年2月8日現在)

試乗体験に際して、まず購入希望者にVRヘッドセットとボーズ(Bose)のヘッドフォンをセットした木箱が送られます。
このヘッドセットには、イギリス・ウェールズの絶景の中で試乗できる、3分間のVRコンテンツが収録されています。

コンテンツのスタートは、イギリス北ウェールズのブラック・ロック・サンズ海岸です。ヘッドセットを装置すると目の前には車がありますが、視線を上に動かすと空や雲が見えます。振り向けば岬の崖に直面し、本当にウェールズの海岸に立っているかのようなリアルな体験ができます。排気音に誘われて車に視線を戻せば、砂地を走行する車体が試乗体験へ導きます。

試乗体験は、助手席からです。左側に澄み切った湖水のリン・オグウェン湖を通り過ぎ、前を見るとボンネットの先にはスノードン山がそびえ立っています。車内に視線を移すと、センターコンソールに装着されたゴールドの限定ロゴプレートなどの細部も確認できます。

ただしこの体験をすべての消費者に提供するには課題がいくつかあることに気付きます。

まず、VRヘッドセットのコストです。体験後にヘッドセットはアバルトに返却されますが、コストを考えるとすべてのメーカーが、すべての顧客にVRセットを提供できるかは疑問です。また体験のために送られるヘッドセット入りの木箱は特別なデザインですが、箱自体が重く、大きいため、誰もが簡単に扱えるものではありませんでした。

とはいえコロナ禍が続く限り、VRは自動車販売においては新しいツールとなるでしょう。ソーシャルディスタンスを保ちながらの試乗は、現実世界では難しいためです。

バーチャル試乗を体験した記者は「このバーチャル試乗体験は、『この車に乗りたい』と思っただけでなく、コロナ禍で何カ月か月も家の中に閉じこもっていた後の自分に、興奮と多様性をもたらしてくれた」と述べています。

 

(2)バーチャルショールーム



自動車の購入時、ショールームへ足を運び、そこに展示されたモデルを買うことに不自由さを感じたことはないでしょうか?

VRを活用した「バーチャルショールーム」であれば、物理的な限界はありません。またデジタルならのはの強みとして、自宅にいながらにしてボディカラーの選択やシートのカスタマイズなどを心ゆくまで行い、満足のいく商品を手に入れることもできます。

メーカーや小売店にとっても、ショールームに多くの実車を並べることは経費がかさみます。売れ残った車は、時間の経過とともに価値が下がります。VRを活用すれば、このような問題は生じません。


【バーチャルショールーム:事例1】
ポルシェ:タイカン VRエクスペリエンス

b-Taycan VR_Gameplay_3(※画像出典:https://newsroom.porsche.com/en/2020/company/porsche-taycan-vr-experience-application-20158.html

 

ポルシェは2020年3月、バーチャルリアリティ(VR)技術をショールーム・センターに導入。VR空間で、ブランド初の電気自動車(EV)である「ポルシェ タイカン(Porsche Taycan)」を、発売前に体感できるようにしました。

ポルシェ タイカンは、世界中の100以上のポルシェセンターで、ブランドがまだ浸透していない市場の顧客に対しても、VRを介して紹介されました。このVR体験は、まずドイツ語と英語とで提供開始され、その後多くの言語に対応しました。


「タイカン VRエクスペリエンス(The Taycan VR Experience)」と名付けられたこのVRコンテンツでは、未発売のタイカンをまるで実車が目の前にあるかのようにリアルに見ることができました。内装・外装を細かく観察し、カスタマイズすることも可能です。


このポルシェの取り組みは、ショールームでの顧客とブランドとの関わりを深めただけではなく、発売を待ち望んでいる人々の興奮レベルを高めました。

プレスリリースの中で、ポルシェのカスタマーリレーション責任者は次のように述べました。

「販売店のお客様の情報ニーズは膨大です。物理的な市場投入の前に、VRエクスペリエンスでこれらのニーズを満たすことができるようになりました。」

 

 


【バーチャルショールーム:事例2】
ボルボ:Unityとコラボした「Auto Showroom」

Unity_Template-1024x576(※画像出典:https://www.automotiveworld.com/articles/how-to-democratise-the-creation-of-real-time-3d-experience/)

 

ボルボはゲーム開発エンジンを提供するUnityと共同で、実物に忠実で調整可能なバーチャルショールームテンプレート「Auto Showroom」を開発しました。

このテンプレートは、自動車やその他の製品が、さまざまな環境やライティング条件でどのように見えるかを確認するためのサンドボックスです。Unityの創設者が、ゲーム開発を民主化したように、ボルボとUnityは、「リアルタイム3D体験の創造」を民主化したいと考えています。

これまで自動車メーカーは、先進的な研究所や開発チームの中で、新技術の開発や機能の改良、コンプライアンスの認証を行い、そのアイデアが消費者にどのように受け入れられるかを検証し、競い合ってきました。

両社は、従来は研究所や開発チームだけが利用可能だった環境を、専門家や学者、学生から一般の愛好家まで、誰もが幅広く利用できるようにすることで、オープンイノベーションの新しいモデルを実現したいと考えています。

アーティストやビジュアライゼーションのスペシャリストを目指す人などがライティング、素材、カメラの設定、後処理などの技術に関する理解を深められるよう、このテンプレートには、一般的なビジュアライゼーションのシナリオを再現する3つのライティングテーマと環境が含まれています。

また愛好者が撮影を楽しめるよう、ライティングテーマや塗装色の調整、ライトやドアの操作を行い、カメラをコントロールできる自動車撮影機能も備えています。

2021年後半にはさらに機能を拡張し、いくつかのカスタマイズ可能な3D環境を備えたテンプレートの更新を予定しています。

更新後は、シミュレーターやVRリグ(※注1)、自動運転センサートレーニング環境で使用可能な運転のための車両力学動作も新たに追加される予定とのことです。

※注1※リグ:
撮影に使用する補助機材をカメラに取り付けるためのマウントのこと。

 

3.まとめ

コロナ禍が促進した消費者行動の変化に対し、自動車販売業界はVRを活用した新たなCX(顧客体験)の提供で応えようとしています。

ヘッドセットを装着するだけで別世界に「連れて行ってくれる」VRは、顧客に驚きと喜びと感動を与えます。また、ボルボとUnityによる「Auto Showroom」のようなオープン型のバーチャルショールームは、メーカーの開発者・研究者と、アーティストやデザイナー、一般ファンとの垣根をなくし、自動車そのものの可能性をも広げるものです。

現実を超えた体験をテクノロジーによって提供するVR技術は、自動車販売業界のDX実現に欠かせない存在と言えるでしょう。

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参考記事:
https://www.automotiveworld.com/articles/with-car-dealerships-at-a-crossroads-is-it-time-to-go-virtual/
https://www.scnsoft.com/virtual-reality/automotive
https://experience.brioxr.com/blog/how-ar-vr-will-revolutionize-marketing-in-the-automotive-industry/
https://www.jetro.go.jp/biz/areareports/2021/6693a935851b2c72.html
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000001.000073506.html
https://www.autoexpress.co.uk/abarth/354241/new-virtual-reality-test-drive-puts-you-driving-seat
https://techwireasia.com/2020/03/how-porsche-is-revolutionizing-the-car-dealership-cx-with-vr/
https://newsroom.porsche.com/en/2020/company/porsche-taycan-vr-experience-application-20158.html
https://www.automotiveworld.com/articles/how-to-democratise-the-creation-of-real-time-3d-experience/
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000161.000016287.htm

Topics: 海外事例, メタバース/VR/NFT