株式会社ADDIX デジタルマーケティング事業部 執行役員 中元直人(以下、中元):
まず、2021年のSNS広告の全体像から押さえていきたいと思います。最近、福原さんは広告の運用をされていて、SNS広告における市場の変化ですとか、何か感じることはありますか?
株式会社ADDIX C&S 福原 裕太(以下、福原):
そうですね。まず市場の変化としては、ざっくり分けて2つのポイントがあると感じています。
まず1つ目のポイントは、FacebookやInstagram、Twitterなどのプラットフォーム側として、ターゲティングの改善だけではなくて、広告そのものの改善でパフォーマンスを高めてほしい、という意向が強くなってきていると感じています。
もう1つのポイントとも関わるのですが、iOS14.5以降のIDFA取得に関わる変更などに伴って、これからはデジタル広告のターゲティング精度が落ちていくことがどうしても避けられない、という状況があります。ですので、クリエイティブなどで広告自体のクオリティを上げて、それによってパフォーマンスも維持してほしい、という意図がプラットフォーム側にはあるのではないかと思います。
そういった意図は、管理画面上で簡単にクリエイティブを作成したり、修正したりできるようになってきていることからも伺えます。たとえば、簡単な動画やスライドショーだったりですとか、エフェクトを足してみたり、アンケートを付けてみたりといったことが、誰でも簡単に出来るようになってきています。
ABテストレベルの改善ならば、管理画面上ですぐに出来るような環境を、各プラットフォームは意図して作ってきているように感じています。
中元:
確かに管理画面で画像編集が出来る機能がかなり増えてますよね。
福原:
そうなんです。ただし管理画面での設定、たとえば広告配信設定の一歩前の広告セット(※1)の設定次第では、出来ない設定というのもあったりしますので、その辺りはある程度操作に慣れてる人じゃないと難しい場合もあります。
(※1)「広告セット」とは:
Facebook・Instagram広告は「キャンペーン」「広告セット」「広告」の3層構造で成り立っており、このうち「広告セット」は、スケジュールやターゲット、予算、配置などを決定・管理するフェーズです。広告作成時には「キャンペーン」⇒「広告セット」⇒「広告」の順番に設定していきます。
【Facebook・Instagram広告の階層構造】
福原:
もう1つのポイントは、パフォーマンスを上げる以前の問題として、管理画面から確認できるパフォーマンスはそもそも正しいのか?ということが、把握できなくなっていると感じます。
実際問題として、データが取り切れない、欠損しているという事実があります。その事実をを受け止めた上で、どう補完していくのか?という点が大事だなと感じています。
運用側で出来ることは限られますが、広告の管理画面の設定で、可能な限りデータを集められるようなアカウント構成にしていくことが重要だと思います。これは細分化という意味ではなく、漏れが極力少なくなるような構成を心がけていく、というイメージになります。
また「データが欠損している」という前提を理解していないと、PDCAのCに当たるチェックの部分で結果を読み間違えてしまいますので、Google Analyticsなどのサードパーティー計測ツールなども活用しながら、足りない情報を補完していく必要があるなと考えています。
そのため、アカウント構成、コンバージョンの設定、パラメーターのルール決め等、広告管理画面で広告を設定する前の作業も大事になってきているように感じます。
中元:
ターゲティング精度が下がってきている、というお話がありました。この点についてもう少し詳しくお聞きしていいでしょうか。
福原:
ターゲティング精度が落ちている件は、プライバシー保護を目的としたデータ取得制限から来ています。ユーザーの情報や行動データの取得に制限がかかるようになりました。
最近の大きな動きとしては、今年の春にiOS14.5で実装されたATT(※2)の影響があります。何が起きているかというと、たとえばFacebookの場合、Facebook内での行動はある程度計測が可能ですが、Webサイトへ遷移してからの行動を追うことが難しくなっています。コンバージョンの計測が出来ない、データに漏れがある、ということが起きてきます。
今まででしたら、コンバージョンしていないユーザーに対して、比較的高い精度でターゲティングすることが可能でした。多少の漏れは当然あったと思いますが、今よりはだいぶ精度が高かったと思います。
ところが、現状ではたとえば「コンバージョンした人にはしばらく広告を出さない」という除外設定をしても、そもそものコンバージョン数の計測で、従来よりも漏れがあるわけです。コンバージョンした人を除外することが今までよりも難しくなりますから、どうやってもターゲティング精度は低下せざるを得ない、ということがあると思います。
(※2)「ATT」とは:
ATT(App Tracking Transparency)は、ユーザーのプライバシーに配慮したAppleのフレームワークです。具体的には、Appleがユーザーのデバイス(端末)にランダムに割り当てるIDであるIDFA(Identifier For Advertising、広告識別子)を取得する際に、ユーザーの許可がを求めることが必要となります。
中元:
広告セットの作り方についてはどうでしょうか。
営業の中で見ていると、お客様に広告のご提案をする際に、ターゲットをいろいろ細かく切り分けすぎてしまうシーンもありますよね。
広告セットを細かく分けて、ターゲットを細分化してご提示すると、お客様にもご納得いただきやすいということも背景にある気がします。
ですが実際には、まとめてブロード配信(※3)しても結構パフォーマンスがいい時も多いように感じます。
(※3)「ブロード配信」とは:
オーディエンスの設定はせず、性別/地域/配信面などの設定は行う配信方法。Facebook広告の他、Google広告やYahoo!広告、その他のSNS広告でも共通している概念です。
福原:
Facebookの場合は、最適化を行うための情報収集期間である7日間に、広告セット1つにつき最低50件の最適化イベントが必要と言われています。
広告セットを細分化しすぎてしまうと、この7日間で50件という数がクリアできず、データ不足で最適化がうまく働かなくなる場合もあります。そういったことを防ぐために、プラットフォーム側からは広告セットを1つにまとめるブロード配信が推奨されている、ということがあると思います。
中元:
プラットフォーム側の管理画面で出来ることが増えており、ツールやAIも進化してきています。お客様がインハウスでSNS広告を運用するハードルも低くなっていますが、インハウスで運用を行う際に気を付けるべきことはありますか?
福原:
機能はあっても、全機能を全ての場面で設定できるわけではない、という点は注意しておく必要があると思います。
機能によって、広告セットの設定次第では管理画面上で出来ない場合があったりします。その辺りは、ある程度操作に慣れてる人でないと難しい場合がありますね。最悪の場合「実際にやってみたら設定出来なかった!」ということにもなりかねません。
たとえばクリエイティブの編集であれば「管理画面上のどこでそれが出来るのか?」「どういう設定をしておくと、簡単に編集ができるのか?」というところを知っているかどうか。その差は大きいと思います。
広告業界は変化が早いです。インハウスで進めている場合、最新情報をキャッチアップし続けることはなかなか難しいですから、どうしても変化に付いて行けないことも起こってきます。
インハウスで運用する場合にも、豊富な運用実績のある代理店などのパートナーと、いざという時には気軽に相談や質問ができるような関係があると理想的ではないでしょうか。
我々のような代理店に運用を依頼していただく場合でも、タグ周りやアカウント構成、ターゲットの分け方など、前提となる基礎的な知識は広告主側でも持っておくとスムーズですね。
※第二弾の記事はこちら
SNS広告の機能やトレンドは「常に変化している」と言っても過言ではないほど、急速に変わり続けています。数年後にはiOSに続きGoogleでもデータ取得の制限が予定されており、ターゲティング精度はさらに下がっていくことが予想されます。
今までの経験や知識が通用しなくなっている中で、広告のパフォーマンスを高めていくためには、各プラットフォームの最新トレンドや市場の変化をキャッチアップしていくことがますます重要になっていくのではないでしょうか。
■プロフィール
株式会社ADDIX
デジタルマーケティング事業部 執行役員 中元 直人(なかもと なおと)
2014年ADDIXに参画。企業のソーシャルメディアマーケティング活動の企画実行を担うチームで業務に従事。一般的なアカウント運用代行における業務をはじめ、戦略設計、運用フローの設計、コンテンツ開発領域も手がける。VR領域の企業活用活性化に伴い、VRコンテンツの制作や企業導入支援の推進も行っている。
株式会社ADDIX C&S
仙台オフィス 福原 裕太(ふくはら ゆうた)
新卒で東京の建築関連企業に入社。電気工事の施工管理を担当し、工程管理やスケジュール管理、品質管理に従事。手順書作成などオペレーション周りの標準化スキルを習得する。2019年、株式会社ADDIX C&Sに参画。仙台オフィスにて、広告のプランナーとしてオペレーションチームで活躍中。ロジカルな思考に基づいた運用提案を強みとする。
※本記事内の情報や部署名・所属等は記事公開時点(2021年9月)のものです。