ピークス株式会社(現:株式会社ADDIX)によるウェブセミナー「料理メディア編集長2人に聞く! 他社に埋もれない食プロモーションの考え方とは」を、2021年1月14日(木)に開催しました。
新型コロナウイルスの感染拡大を受け、行われた緊急事態宣言を背景として、内食の多様化、ウィズコロナ時代の外食産業のあり方、生産者支援など食をめぐる事柄への関心が高まっています。そんなトレンドを受けて食の情報が溢れている中、自社の商品・情報を適切にPRし、世の中のニーズに応えていくにはどのような視点が必要なのでしょうか? また、わたしたちの食はどのように変容していくのでしょうか?
料理を趣味として楽しむ人のメディア『buono』の創刊編集長を務めた島貫朗生と、レシピ本シリーズ編集長の河崎秀明が、それぞれの視点から今後の食プロモーションのあり方を語ったセミナーの様子をお届けします。
※本記事内の情報、部署名・所属等は2021年8月16日現在のものです。
【目次】 |
1.登壇者紹介 |
島貫朗生は、料理を趣味として楽しむ人のメディア『buono』を2016年に創刊、編集長を務めました。和食、フレンチ、イタリアン、中華、エスニックと多様なジャンルの飲食店を1000軒以上取材した経験を生かし、現在はレストランジャーナリスト、料理研究家としても活動しています。
ムックの表紙やタイトルからも伝わってくるとおり、島貫のこれまで手掛けてきた仕事を表すキーワードは「探究心旺盛な料理ギーク」「大胆かつオンリーワンなテーマ設定」「外食志向。シェフのプロクオリティへの敬愛」と言えるでしょう。
一方、女性向け生活情報コンテンツの制作に30年以上にわたり従事してきたのが河崎秀明です。レシピ関連書籍の豊富な経験を生かし、様々なクライアントワークも手掛けています。愛知ドビー「バーミキュラ」シリーズの製品同梱冊子やヴェレダのウェブコンテンツなど、顧客満足度の高いクリエイティブ制作が信頼を集めています。
女性を主なターゲットにしたレシピ関連書籍は、実用性と夢の両方をしっかりと盛り込まなければならないコンテンツ。その制作に長く携わってきた河崎の仕事をキーワードで表現するなら「毎日の食卓を楽しく彩る、レシピ編集の達人」「かゆいところに手が届くオンリーワンなテーマ設定」「料理研究家、スタイリスト、カメラマン、それぞれの特徴を押さえ、アサインするネットワーク力」。
「男性向け・女性向け」「外食志向・内食志向」と主戦場は異なるものの、どちらも料理への愛は限りなく深く、“オンリーワンなテーマ”がポイントとして共通している二人。それぞれの個性を生かした“オンリーワンなテーマ”についてさらに掘り下げます。
2.オンリーワンな企画の考え方とは? |
(1)食に関するプロモーションを取り巻く現状
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2020年春の緊急事態宣言以来、おうち時間の充実を図るニーズは増大しています。
その傾向がとくに顕著だった例として、弊社のメディアプラットフォーム『FUNQ』において、スパイスを調合し炒って作る手間のかかるカレーのレシピ記事のPV数が2020年春に急増したことが挙げられます。
また弊社が運営する丁寧な暮らしを応援する、女性のためのメディア『暮らし上手』や、料理を趣味として楽しむ人のメディア『buono』も不要不急の外出自粛が要請された2020年3月ごろは大幅なアクセス増となりました。
また、「シェフのテレビへの露出が増えましたし、自分の料理家としての仕事も、みなさんが家庭で作ることを前提にした案件が増えました」と語る島貫。
一方、河崎は「食関連のYouTuberがとても増えましたよね。意外と、料理家さんがYouTube配信を始めたケースも多いです」と分析。長引く巣ごもり生活の中で、いろいろな料理を手軽に作りたいというニーズの高まりと、それをいかに楽しく伝えるかということに腐心する料理家側の変化も感じているそう。「新しい料理好き層も取り込んで、(食周辺が)盛り上がっているのは確か」と食への関心が高まっている実感を語りました。
(2)オンリーワンなテーマの探し方
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ただ、そのような盛り上がりもあって、消費者のもとではテレビ、雑誌、SNS、店頭、情報配信系アプリなど多様なチャネルからの食の情報が飽和状態となっているのが現状です。プロモーションを行う側としては、そんな状況のなかで他社に埋もれない「オンリーワンな食プロモーション」を追求することはさらに重要度を増していると言えます。
二人それぞれの差別化を図る手法として、島貫は自身の実感や発見を起点とした本能的・感覚的なもの、河崎はデータからヒントを得て企画を練り上げていく分析的・実証的なものと、見事に分かれました。データ分析の重要性は、200近くの料理ムックを手掛けてきた河崎の経験に裏打ちされた説得力を感じました。
(3)クライアントワークでオンリーワンな企画を実現した事例を紹介
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自分で一から探す企画だけでなく、クライアントワークにも他にないテーマ設定は求められます。そうしたプロモーション企画はどのように作られるのか? 二人のこれまでの仕事から、オンリーワンな企画で実施した以下プロモーション事例を、自身で振り返ってもらいました。
島貫
・USMEF(米国食肉輸出連合会)× Weber制作事例
・EX-FOOD Lab. イベント事例
河崎
・バーミキュラ(ライスポット、フライパン)レシピブック制作事例
(4)今後、やってみたいオンリーワンな企画は? |
前述のとおりテーマ探しにおいて対照的な手法を持つ二人。そんな二人がいま関心を寄せているテーマを明かしてくれました。
「3年ほど前からファインダイニングで使われているのが、ハーブの鮮烈な色と香りをオイルに移したハーブオイルというもの。一般化してしまう前に、インパクトのある形でプロモーションしたら面白いと思う」と言う島貫。他にもJEAN-GEORGESのマグロのヌードル仕立てのように、切り方次第で食材を従来と異なる料理に仕立てる手法にも注目しているようです。
河崎が関心を寄せているのはミールキット。コロナ禍で夜間に外食ができない中冷凍ミールキットで知った、意外なほどの美味しさと達成感がきっかけで、2020年11月にはムック『10分で手作り! 冷凍ミールキット』を出版したといいます。「たとえば◯◯産ミールキットといった商品で地域特有の味を出せたら、消費者の喜びに直結するものができるのでは?」とまだまだ広がるミールキットの可能性に確信を得ている様子でした。
時と場所を選ばず、他にないテーマを常に追い求める“ハンター”ぶりが垣間見える回答でした。また、メーカーや消費者の視点に立って自身のアイデアの良し悪しを吟味する姿勢は、二人の共通点と言えるかもしれません。
3. 質疑応答 |
参加者の方から事前にいただいていた質問と、当日チャットからいただいた質問に島貫、河崎がご回答する形で自身の考えを述べました。食プロモーションの現場の空気が伝わるリアルな質問も多くいただき、回答では大胆な私見が飛び出したり、当日質問にもかかわらず島貫と河崎でまたも正反対の意見が出るなど興味深い展開となりました。
Q1:食トレンドのリサーチはどのように行っていますか?
島貫「僕はトレンドに限らず食の情報はレストランから受け取ることが圧倒的に多いです。食のトレンドは、尖ったシェフから始まり広まって生まれるものだと信じていますし。だから、とにかくレストランに行きまくって食べまくることです。あと、太らないように気をつける(笑)」
河崎「僕はどちらかというとコンビニとかスーパー。売り場面積とか新商品を見ています。一時期、セブンイレブンのスイーツが濃い味のものばかりだなあと思って『そうか、いまは濃厚系なんだな』と兆しを読み取って『濃厚スイーツ』というムックを出して売れたということもありました。もちろんデータも重要ですが自分の目で見て、兆しを感じ取ることも大事にしています」
Q2:世間で流行しているもの、自分が美味しいと感じたもの、どちらを大切にされていますか?
島貫「自分で食べるにも、近しい人に食べてもらうにも、自分が美味しいと感じるものを突き詰めていくのが良いんです。ただ、ホームパーティとかでモテようとするなら流行は取り入れないといけないんですよ。世間で流行しているものを、いかに組み立て直して自分の味にするか、ということを自分なら考えたりするかもしれませんね」
河崎「端的に言えば『自分が美味しいと感じるものが美味しい』ということになりますが、味覚って人によって違うんですよね。人それぞれ生まれ育った土地や食べてきたものによって、味覚は本当に様々です。『自分は美味しいと思って作っているのに、彼は美味しいと言ってくれない』なんてことがあっても、気にしなくていいと思っています。自分が美味しいと思えばそれが真実、というスタンスですね」
二人は他にも以下のような質問に回答しました。
Q:バズるアイデアのためにしている習慣などがあれば教えてください。
Q:おうちごはんが増えている今だからこそできる消費者へのアプローチを教えてください。
Q:お二人が選ぶ今プロモーションが成功している企業やメディア、その理由を教えてください。
Q:いかに本を売るかということと、クライアントの要望、どちらを優先させますか?
Q:コロナ禍の中、食にエンタメ要素を求める方も少なくないと考えます。小さな兆しとはいえ生まれた食の再認識において、雑誌の果たしたい、もしくは果たすべきミッションはどこにあると考えますか?
最後に |
コロナ禍で大きな変化を余儀なくされた日本の、世界の食生活。日々揺れ動く状況の中で私たちの食への関心は単に高まっているだけでなく、未知のニーズをはらんでいます。そこに対して、島貫と河崎は次にどんな“オンリーワン”なテーマを打ち出してくるのでしょうか。今後を楽しみに待ちたいと思います。
一人ひとりの“好き”を応援するピークス(現:ADDIX)は、今後も趣味に関するさまざまな企画やマーケティング事例などといったウェブセミナーを行ってまいります。
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■登壇者プロフィール
島貫 朗生
料理を趣味として楽しむ人のメディア『buono』の創刊編集長。これまで1000軒以上の飲食店を取材し、そこから得た膨大な知識や味覚を自分の料理に取り入れ、日々自らの料理道を貫いている。その領域は和食、フレンチ、イタリアン、中華、その他各国料理にまで及ぶ。 現在はレストランジャーナリストや『悪魔のレシピ』(枻出版社)などで話題の料理研究家としても活動。
河崎 秀明
女性向け生活情報コンテンツの制作に30年以上従事。レシピ関連書籍に最も強みがあるが、その他医療整形やビジネス関連書籍の実績がある。愛知ドビー「バーミキュラ」 シリーズの製品同梱冊子を担当しており、顧客満足度向上のためのクリエイティブ制作には定評あり。そのほか、ヴェレダのウェブコンテンツ、JA全農「地味弁.com」のコンテンツも担当するなど様々なクライアントワークを手掛ける。