この3月9日(木)、ANA(全日本空輸株式会社)は、同社が運営するクラウドファンディングプラットフォーム「WonderFLY(ワンダーフライ)」の報道関係者向け展示会を開催。現在ファンディングを受け付けているプロダクトのプロトタイプ製品の展示を行いました。エアラインであるANAのクラウドファンディングという新たな取り組みを、BWRITE編集部で取材してきました。
ANAの強みを生かし、アイデア出しから流通までを支援するプラットフォーム。
クラウドファンディングは、インターネット上で不特定多数の人が、企業や個人に対して資金的な支援を行う仕組みを指し、近年日本国内でも盛り上がりを見せつつあります。そんな中、昨年秋にリリースされたWonderFLYが、2月9日からクラウドファンディングの受付をスタート。サポーターはクレジットカードのほか、自身が保有しているANAのマイレージでも支援をすることが出来ます。
WonderFLYが他のサービスともっとも異なる点は、その支援が資金調達にとどまらないところ。3,000万人のANA会員と、機内販売やEコマースという販売チャネルを持つ強みを生かし、アイデア出しからプロトタイプ作製、流通までをフルサポートするプラットフォームとなっています。サイト上では、コンテスト形式のクリエイティブアワードと、そこで選ばれたプロダクトのクラウドファンディングの2段階で実施されます。
運営を担うデジタル・デザイン・ラボは、ANAに昨年4月に誕生したばかりの組織です。本業のエアライン業務とは距離を置き、将来の収益源となる、新しい可能性を探るミッションを与えられています。WonderFLYは、その初めての案件です。
デジタル・デザイン・ラボ チーフディレクター 津田佳明 氏によると、ANAがクラウドファンディングを始めた背景は、大きく2つあるといいます。1つは、エアラインとして、既存顧客に新しい価値を提供していきたいということ。クラウドファンディングを通して、ANAと顧客がともに将来ヒット商品となる可能性のあるプロダクトを応援することでワクワク感を提供したい考えです。
もう1つは、アイデアを持ってチャレンジする人を応援したいということ。もともとは2機のヘリコプターから始まったベンチャー企業であったANAには、今も挑戦を重んじる企業風土がアイデンティティとして息づいています。創業当時の自分たちのように世の中に挑戦したい人を応援したいという強い思いがある、と津田氏は語りました。
個人による支援を手軽にすることで、日本のイノベーティブなものづくりを応援。
WonderFLYにはさらに、日本のものづくりにおけるイノベーターを応援する、という意図があります。企画立ち上げから携わる、デジタル・デザイン・ラボ イノベーション・リサーチャー 梶谷ケビン氏は、この理由について「アメリカ人の僕の目から見て、ずっと日本はとてもイノベーティブな国でした。今もその部分は変わっていませんが、世界に向けた発信がうまくいっておらずとてももったいないと感じます。」と語ります。
理由を探るなかで耳にしたのは、「資金が足りない」という言葉。日本は欧米に比べて個人投資がとても少なく、開発資金を得る上で大きなネックになっていました。ケビン氏は、そこに大きなポテンシャルを見出しました。個人が気軽に少額から支援できるクラウドファンディングが日本で広まれば、資金市場を活性化できると考えたのです。
「日本は今もとてもイノベーティブ。 ANAのサポートで、実際に夢を叶えていく人が続いていくことで、そういう道筋があることを示したい。夢を叶える方法はある、ジャパニーズドリームはある、と信じられるような、お手伝いができたらうれしいですね。」
テーマは「旅の常識を覆すモノ」。展示会には、世界中に広めたいプロダクトが集結!
WonderFLY第一弾は、「旅の常識を覆すモノ」というテーマで、プロダクトアイディアを募集。クリエイティブアワードで、541件の中から9件を選出。現在は、協力企業のアイデアを含めた計12件で、3月27日(月)0時まで、クラウドファンディングを受付中です。今回の展示会では、その中のからいくつかのプロトタイプ製品が展示されました。
この日の展示会を取材して、どのプロダクトも世界中の人たちに知ってほしい、本当に広まってほしいものばかりだと感じました。その中からいくつかをご紹介します。
■SCOO(読み:スクー)/チャレンジャー:高橋製瓦株式会社
https://wonderfly.jp/cf/ideas/470
長い距離を歩くのが難しい方にも気軽に旅を楽しんでほしい、という思いから開発されたモビリティースクーター(電動車いす)。たとえば、足を悪くして趣味の旅行を諦めてしまったシニアの方なども、これを使うことで家族と歩調を合わせて旅先で散策することが出来るようになります。折りたたむと航空機の受託手荷物として預けられるサイズになり、スーツケースのように手で引いて持ち運ぶことも可能。個人での所有のほか、ツアー旅行に組み込む、テーマパークや公共交通機関などに設置するなど、さまざまな活用方法がありそうです。(※片手で感覚的にハンドル操作ができる、新開発のサイドステアリング方式を採用。)
(※重量はバッテリー込みで25kg。キャスター付きで、女性でも運ぶことが可能。)
■Kimonoket(キモノケット)/チャレンジャー:和文化発信計画・入谷のわき
https://wonderfly.jp/cf/ideas/339
「銘仙×今治のタオルメーカー×空の旅」をテーマに考案された、着物型の羽織りもの。一番乗りでプロジェクト成立が確定しています。機内でタオルケット代わりに、ビーチサイドや温泉では浴衣のように、ちょっとしたおでかけ着としてなど、旅のさまざまなシーンで着用可能。機内で毛布がわりに体にかけると、手を通せるためずり落ちず、本を読んだりも出来るのでとても便利です。また折りたたむとコンパクトになることも荷物が多い旅行ではうれしいところです。
■Selfie 360/チャレンジャー:go
https://wonderfly.jp/cf/ideas/563
スマホのカメラ部分に取り付けると、撮影している自分も含めた360度のパノラマ写真を撮影することが出来るアイテムです。旅行先の風景と自分と友人の姿を、楽しい旅の思い出として1枚の写真に収めることが可能です。チャレンジャーのgoさんは大学生。友人との旅行で撮影した写真に、撮影した自分が写っていなかったという経験が開発のきっかけでした。これがあれば、そういう悔しい思いをすることもなくなりそうです。手動式のため、旅行先でも電池切れの心配がないのも魅力です。
(※手前がスマホに装着した状態の試作品。PC画面上の画像のようなパノラマ写真が撮影できる。)(※スマホが地面とほぼ水平になるように、手に載せるように持って撮影する。)
■SPLIT FORK & CHOPSTICKS/チャレンジャー:JUN TAKAGI
https://wonderfly.jp/cf/ideas/232
異文化の架け橋になる、フォークの形状をした割り箸。割ってお箸として使うことも、割らずにフォークとして使うこともできる2WAYアイテムです。海外の日本料理店などでは、異なる文化を持つ人同士が同じ道具を使って食事をすることで、コミュニケーションがさらに豊かになりそうです。また、機内食で利用する場合には、お箸とフォークを両方用意する必要がなくなり、配る際にどちらかを選んでもらうという手間も省くことができます。素材は、環境に配慮し、スギの間伐材の使用が想定されています。
(※知人のデザイナ―に依頼したという試作品の箸袋は、スタイリッシュなデザイン。)
(※箸としてもフォークとしても使いやすいよう、両側の厚みや形状が工夫されている。)
会員やファンを巻き込むべンチャーマインドが原動力!成長を続けるANAの新たな挑戦。
WonderFLYという、夢を持つイノベーターを世界に羽ばたかせる仕組みそのものが、ANAにとっては新たな1つのチャレンジでもあります。会員やファンを巻き込んだこの仕組みを、今後どう発展させていくのか。発信されるプロダクトによって、日本企業であるANAが世界にどんなインパクトを与えていけるのか。壮大なプロジェクトの今後がますます楽しみになる展示会でした。
text/Keiko Matsumoto(BWRITE編集部)
【WonderFLY クラウドファンディング】
第一弾テーマ:「旅の常識を覆すモノ」
クラウドファンディング受付期間:2017年2月9日(木)~3月27日(月)0時まで受付中
※詳細はWonderFLYサイトを参照。
■ANA WonderFLY
https://wonderfly.jp/cf
■全日本空輸株式会社
https://www.ana.co.jp/